ひそやかな楽しみのために
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After roulette
その四。
その四。
アパートメントのカインの部屋は血の匂いに満ちていた。
何度も嗅いだことのある匂い…何度嗅いでもいい気分では無い。ましてやそれが恋人の体から流れ出したものであれば…。
ジーノはカインのベッドに横たわり、顔をしかめて激しい苦痛と戦っていた。痛みに歪んだ顔に浮かぶあぶら汗、歯の間から漏れる呻き声、シーツをつかむ指の力がその苦しさを物語っている。
普段、強がりなジーノがこんなに苦しむなんて…。
誰がこんなことを…
動揺しかけた気持ちを深呼吸でなんとか落ち着かせた。しっかりしなければ…。
怪我に喘ぐジーノの周りにはカインの他に、オフェンスの知らない男が二人居た。色の黒い大男と、赤毛をオールバックに撫でつけた細身の男である。ジーノの仲間だろうが、突然やってきた自分を胡散臭そうに見詰めている。大事な仲間を任せることができるのかどうか見定めているかのようだ。しかしカインがそんな二人の目を気にしないでいてくれることで少し落ち着きを取り戻すことができた。
「このザマだ…言われたとおりに止血はしておいたが…」
カインがオフェンスの顔をうかがう。彼はオフェンスが指示したとおりのことを済ませてくれていた。ジーノの相棒であるカインも気が気ではなかったのだろう、乱れた金髪の下から覗く淡いブルーの目は緊張で光っていた。
「大丈夫よ、後は…まかせて」
苦しみ悶えるジーノの姿を見詰めながらオフェンスは白衣に袖を通した。
ジーノ…オレに任せてね…
ジーノが苦しんでいると…オレも苦しいのよ…?
傷口の血だまりをガーゼで拭い、彼の治療が始まった。
治療の妨げにならないようにと、カインは男二人に目くばせをして部屋の外へ出た。
外の空気を胸に吸い込み、まずは一服火をつける。
「オイ、本当にアイツに任せて大丈夫なんだろうな?」
黒人の大男がカインに念を押す。確かにオフェンスの若さをまのあたりにしたら心配になるのも無理からぬことかもしれない。カインは紫煙を唇から吐き出し、くわえた煙草を揺らしながら答えた。
「…アイツの身元と腕前なら俺が保証するよ。あれでも医師の資格を持ってる」
「お前の言うことを疑うわけじゃないが…」
大男は唇を曲げて、まだ何か言いたげだったがそれ以上は言葉にしなかった。
なんにせよ、あの不思議な男に今は全て任せるしかないのだ。
今度は赤毛の男が口を開いた。
「一体、アイツは何者なんだ?」
カインは赤毛に向き直ると、事も無げに答えた。
「海賊だよ」
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